光ヘテロダイン干渉法


  1. ヘテロダイン干渉法
    周波数がわずかに異なる2つの波を重ね合わせると,その周波数の差に等しい「うなり」「ビート」を観測できます.この「うなり」から必要な情報を取り出すことをヘテロダイン法といいます.光も波ですから,当然「光のうなり=光ビート」を生じます.「光ビート」から情報を取り出すことを,光ヘテロダイン干渉法と呼びます.「干渉」とは,2つの光を重ね合わせることをいいます. うなりは,楽器の調律(チューニング)をするときによく体験できます.調律では,よく音叉というものを使います.これを使ってギターの調律をするときのことを考えましょう.
    最初,弦が緩い状態で音叉を響かせながら弦をはじくと,弦の音と音叉の音が別々に聞こえます.弦を次第にきつくすると,今度は全体に一つの音のように聞こえてきますが,よく聞くとその音は非常に速い周期で強弱を繰り返しているのに気がつきます(状態1).さらに弦をきつくしていくと,その音の強弱の周期はしだいに長くなり(状態2),やがて音の強弱は全く無くなります(状態3).
    この音の強弱のことを「うなり」といいます.うなりは,2つの音(波)の周波数が異なるとき,その差の周波数となって感じられます.音叉の音と,弦の音との周波数の差が大きいとき(状態1)では,うなりの周期は速くなっています(うなりの周波数が大きい).2つの音の周波数差が小さくなってくると(状態2),うなりの周期は遅くなります(うなり周波数が小さくなる).
    このように,2つの波を重ねると「うなり」を生じ,そのうなりの周波数は2つの波の周波数の差に等しくなります.この場合,音叉の周波数は一定ですから,これを参照信号と考えると,弦の周波数をうなりの周波数,つまり音の強弱の周期で聞き分ける(=検出する)事が可能になるわけです.
    光の場合も音と全く同様の現象が起こります.すなわち,周波数のわずかに違う2つの光を重ね合わせると,その差周波に等しい光のうなりを生じます.このうなりは「光ビート」と呼ばれ,光ビートの周波数を単に「ビート周波数」と呼ぶこともあります.光ビートは,光強度の周期的な変化(明暗の変化)として検出されます.
    2つの光のうち一方の光に何らかの情報を与えると,それに対応して光ビートにも情報が現れます.ここでいう情報とは,光の振幅,位相,周波数に何らかの信号を与えることをいいます.つまり,一方の光に何かの情報があるとき,その光に「基準となる」別の光を重ね合わせ(これを参照光といいます),光ビート信号から情報を取り出すことが可能です.この様な信号検出方法を「光ヘテロダイン干渉法」といいます.
    光ヘテロダイン干渉法は,次のような特徴を持っています.

    • ロックインアンプなどを用いて信号検出をすると,高精度,高感度の測定が出来る.
    • 信号情報が,位相情報だけの時は,外乱による信号光の強度変動に影響されない.
    • 周波数が異なる信号成分(一般にノイズ)の影響を受けない.
    • 参照光の強度を大きくすることで,微弱な信号の検出が可能になる.等

次に,光ヘテロダイン干渉法の原理を,数式を使って説明しましょう.参照光と信号光の電界成分をそれぞれEr, Esとすると,これらは次のように表すことができます.
\begin{eqnarray}E_r=a_r cos(2\pi f_r t + \phi _r) \tag{1} \\
E_s=a_s cos(2\pi f_s t + \phi _s) \tag{2}\end{eqnarray}
ここで,\(a_r, a_s\)はそれぞれ参照光,信号光の振幅を表します.\(f_r, f_s, \phi _r, \phi _s\)も同様に,それぞれ周波数および位相を表します.この二つの光を重ね合わせると,検出される光強度Iは(光強度は,電界成分の2乗に等しくなりますので)次のようになります.
\begin{eqnarray} I &=& \langle|{E_s + E_r}|^2\rangle\\ &=& \frac{a_s^2+a_r^2}{2}+2a_s a_r cos\{2\pi (f_s – f_r)t + (\phi _s – \phi _r)\}\\ &=& \frac{a_s^2+a_r^2}{2}+2a_s a_r cos\{2\pi f_b t + \Delta\} \tag{3} \end{eqnarray}
ここで,\(\langle\rangle\)は時間平均を表します.また,\(f_b=f_s – f_r\)は「光ビート周波数」を,\(\Delta=\phi _s – \phi _r\)は二つの光成分の「位相差」を表します.
光検出器で検出される光電流成分は,(3)式の第1項と第2項が直流成分となり,第3項が周波数\(f_b\)で正弦波状に変化する交流成分となります.この交流信号を指して「光ビート信号」と呼びます.
光ヘテロダイン干渉法では,光ビート信号の振幅(\(2a_s a_r\)),周波数(\(f_b\)),あるいは位相(\(\Delta\))を電気的に計測し,光信号の振幅(\(a_s\)),周波数(\(f_s\)),または位相(\(\phi _s\))に含まれる情報を取り出します.


  1. ゼーマンレーザー
    ところで,「周波数の僅かに異なる2つの光」などというものは,実際にあるのでしょうか.この様な光は,レーザーにちょっとした工夫をするか,光に後から周波数を変化させるような工夫をしてあげることで実現できるのです.
    前者の代表例が,ゼーマンレーザーです.後者は,周波数シフタと呼ばれる素子があります.どちらも2周波光を発振することが出来る点では変わりません.実際には,長所短所を見極めながら使い分けるのがいいでしょう.
    ユニオプトでは,干渉計の光源にゼーマンレーザーを使用しています.これは,(1).二つの成分が同一光軸上にほぼ無調整で得られる,(2).2つの成分は温度等の影響によって互いにずれることがない,(3).2周波発振光の光周波数が安定化されている,などの特徴があります.このレーザーは,He-Neレーザーに静磁場を加えて共振器内部に異方性をもたせ,周波数の異なる2つの偏光成分を同時発振させたものです.ゼーマンレーザーは,レーザーの光軸に対して加える磁場の方向によって,「横ゼーマンレーザー」と「軸ゼーマンレーザー」とに分けられます.
    「横ゼーマンレーザー」は,レーザーの光軸に対して直角方向から静磁場(=横磁場)を加えることからこう呼ばれます.He-Neレーザーに横磁場を加えると,周波数が異なり互いに直交する2つの直線偏光成分が発振します.レーザー管に加える静磁場の強さは,レーザー管の長さ(=共振器長)によって決まります.普通,横ゼーマンレーザーの二つの偏光成分の周波数の差は数十~数百kHzですから,光電検出によって「光ビート信号」を観測することが出来ます.
    レーザー管を熱的に安定させると,光周波数安定度は,\(10^{-9} – 10^{-10}\)が得られます.光周波数を安定化したものを「安定化横ゼーマンレーザー(STZL)」と呼びます.STZLは,Stabilized Transverse Zeeman Laser のそれぞれの語の最初の1文字をとったものです.

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